Oracle の Sun Microsystems 買収を歓迎する

正直、昨夜は気分が昂揚してしまい熟睡できなかった。Netscape や Sun という企業群の興亡ヒストリーに、一生のうちにお目にかかれた幸運を本当にありがたく思う。
単純に考えるなら、Oracle がいちばん欲しいのは Java だろう。Oracle Database は、とくに 9iR2 の時代から顕著に Java をサポートしていたという(個人的な)印象がある。むろん、MySQL を獲得できることのメリットも大きい。ただ、これについては後述とする。
Oracle、それもとくに Oracle Database が Java を自由に扱えることで、ユーザにもたらされるメリットを考えてみる。少なくとも、3つのメリットが考えられる。
一つには、今まで Java で書かれていたビジネス・ロジックを、ストアド・プロシージャとして Oracle Database の中に取り込んでしまうことの効果が大きくなる期待である。これを通じ、とくにメモリのハンドリングを Oracle Database というプラットフォームに一元化できるため、サイジング見積りがしやすくなるメリットがもたらされる。
むろん、GCOracle Database 上でうまく実行できるのかという懸念は当然あるだろう。だからこその統合が期待されるのだ。統合を通じ、Java DB のブラッシュアップが図られるのであれば言うことはない。
二つ目は、サポート・チャネルの統一によるユーザの事務負担の軽減である。
Oracle + Java というシステムがトラブルに見舞われた際、これまではトラブル要因の切り分けをユーザやベンダ(ISV)の側が強いられてきた事情があった。しかしながら、OracleJava が組織的に一つになれば、サポート・チャネルの一元化を通じ、ユーザの側も、そしてもちろん Oracle の側も体制をスリムにできる Win-Win(笑) 関係のメリットがもたらされる。
むろん、これも実現までには相当の時間がかかることが想定される。我々は、ユーザの立場で Oracle に向けサポート・チャネルの一本化をしつこくアピールしていかねばならない。それもソフトウェアに対する「貢献」の一つであると言える。
三点目は、Java、とくに Java 1.4.2 のライフサイクル問題の解決である。
Java SE 1.4.2 は、今でも使用しているユーザが非常に多いと察する。しかしながら、それは昨年 2008 年の時点で既に EOSL を迎えた。当時の Sun は、EOSL 以降も Java SE 1.4.2 のサポートを求めるユーザに向けたライセンス・プログラム「Java SE for Business」(通称 J4B)を発表した。J4B は、EOSL 以降も最長で 15 年間の技術サポートを Sun から受けられるサービスである。
しかしながら、J4B のコストはいささか高い。従業員数が係数となるその課金体系は、特に大きな組織にとってのライセンス費用負担はこのご時世に捻出し難いものであるのは間違いない。ましてやそうしょっちゅう Java がコケるわけでもないならなおさらである。
一方の Oracle Database も、「ライフタイム・サポート」という無期限サポート・プログラムを打ち出している。とはいえ、ライフタイム・サポートを適用しないとしても、例えば Oracle Database 10gR2 の Extend Support 期間は今後 2013 年 7 月まである。
例えば Oracle 10gR2 + Java SE 1.4.2 という構成のシステムを使用しているユーザがいたとする。その場合、Oracle Database のサポート期間がまだ残っているにもかかわらず、Java の EOSL は既に過ぎている。ここで J4B を適用しなければ、以降 Java のサポートは受けられくなってしまうことになる。
Oracle 10gR2 に同梱されている JDK、これが 1.4.2 であることをご存知の人は多いはずだ。OracleJava の統合を通じ、Java のサポートが Oracle Database のライフタイム・サポートに一本化されれば、ユーザの安心感に寄与するばかりか、サポート切れによるセキュリティ・リスクの名目上の回避手段ともなり得る。
最後に、MySQL について触れておく。
今回の買収劇で MySQL が危うい目に遭うのではないかと本気で心配する声をいくつか耳目にする。その種の心配は、杞憂に過ぎないとここで主張しておく。
かつての日本では、カメラのヤシカが京セラに買収されたときにヤシカ・ブランドが消滅するなどの悲しい事例があった。個人的には、特にヤシカについてはブランディングのミスを強く責めたいと今でも思っている。
とはいえ、対するアメリカのソフトウェア文化、とくにシリコンバレーのそれは、オープンソースフリーソフトウェアに対するリスペクトは並々ならぬものがあることを知っておくと良いだろう。
そもそも、Sun に吸収された時点で MySQL は既に「商用プロダクト」となっている。しかしながら、Sun にも深く根付くフリーソフトウェア・カルチャーが、MySQLOSS 版を維持させたと理解することができる。それは Oracle とて同じだ。いくら仮にラリー・エリソンがスットコドッコイで見当違いなことを言ったとしても、シリコンバレーのソフトウェア・デベロッパ・コミュニティはけしてそれを許してはおかない。ハッカーたちに嫌われるようなことをエリソンが進んで指示するとは思えない。彼およびその周辺もバカではない。SCO などの事例から多くを学んでいるはずである。
こうしたもろもろの事由から、私は、今回の Oracle による Sun Microsystems の買収を、技術者あるいはビジネスパースン(笑)の一人の立場で大いに歓迎するのである。