みんなが得をすることを考えるからしんどい。みんなが損をしない方法を考えよう

コンサル(笑)のシゴトに就いていると、顧客に向けプレゼンテーション(笑)を実施するときに PEST や SWOT や 4P や 5F や 7S といったいくつかの定番的フレームワーク(笑)よりも古典経済学理論の方がシックリくることが多々ある。

その一つに、「パレート最適」がある。最近では「パレート効率性」とも言うらしい。詳しい解説は Wikipedia でも見ていただくとよい。

簡単に言えば、ある誰かがより得をしたいためには他の誰かをより損させないとそれが実現し得ない状態を指す。ということは、裏を返しつつ教条主義的要素も少し加味すれば、この経済社会の中で自分(たち)の都合のために自分(たち)だけが得をしようなどとは考えるな、という戒めにも通じる。

そんなこんなで、吉本ばなな氏の件である。今では「よしもとばなな」と書くらしい。

既にネタ系も含めた秀逸な記事が少なからず公開されているので、ここでばなな氏の件を多く語ることはすまい。しかしながら、ばなな氏、あるいは彼女の立場の支持を主張するダンコーガイ(笑)のエントリには、バブル期を経験した人間特有の横柄さないしは傍若無人さが見られ、ひどく不愉快な気分になったことは書いておかねばなるまい。

ダンコーガイ(笑)とバブルは関係ないじゃないか、と言う人がもしかするといるかもしれないので軽く補足しておく。彼こそ、オン・ザ・エッヂというライブドアの前身の企業の株式公開であぶく銭を手にした「ドットコム・バブル」の申し子であることを我々は忘れてはならない。

昭和から平成の変わり目のバブル期に大活躍したばなな氏と、ドットコム・バブルを機に巨富を成したダンコーガイ(笑)の意見を見比べると、上記のような「バブル」という共通項が見えるのは、不愉快ながらも実に興味深い点である。

彼ら「バブルの申し子」たちは、どうやら居酒屋の店長という人物を損させても構わない、自分の楽しみのためなら誰かが犠牲になるのはアタリマエという考え方の持ち主らしい。

それが、100 年ほど前に提唱された「パレート最適」に適わないのは、ここで多くの説明を尽くすまでもない。

チェーン居酒屋、あるいはそこで働く店長をはじめとする現場スタッフは、まさに「パレート最適」の体現者である。その手順(プロトコル=約束事と言ってもよいだろう)を愚直に実施することこそが、ビジネスの定型化を通じた効率化、例えば全店舗単位での品質(料理や飲み物の鮮度、調理・盛り付けの手際、など)、価格(他店よりも競争的に優位=安い価格、割引制度、など)、デリバリ(注文を間違えないこと、注文から席に届くまでのスピード、など)のレベルの向上を期待できる源となるのだ。

そこにばなな氏のようなイレギュラーな客が現れたとしよう。そうした客は、自分たちだけは特別扱いしろと主張する。他の客?そんなモン知らん。(ばなな氏のケースでは偶然他の客はいなかったようだけど、もしかすると単に自分の席から見えていなかっただけかもしれない)キマリどおりにやらないと店長の立場が危うくなる?そんなモン知らん。

このように一貫して自分の利益をかたくなに主張する態度が、チェーン居酒屋の客として歓迎されざるものであることは明らかだ。

そしてさらに、ばなな氏やダンコーガイ(笑)(ときに「経済の『ケ』」を語ることすらあるあのダンコーガイ(笑)がである)がそうしたことをつゆほども知らなかったとは、まったくもって驚くほかない。

あるソフトウェア・パッケージ・ベンダがいたとしよう。そのパッケージには世界中で千、あるいは万単位の数の企業ユーザがついている。パッケージの適用業務はとても専門的でユーザごとのカスタマイズ・アドオンなどもあるため、ほぼワン・トゥ・ワンで対応することが求められる。
仮にユーザ企業の中の一つに、社会的知名度はあれども支出はシブいと評判の会社があったとする。案の定そのユーザは、年次サポート契約の初回更新時に大幅な値引きを要求してきた。しかも、仮にそれをのめばサポートにかかる原価を下回る売上になってしまうような額までの値引き要求である。
あなたが経営者なら、その値引き要求をのむだろうか?
いや、けしてのむことはできないはずだ。なぜなら、仮に原価を下回ればサポート品質の低下は避けられず、さらにそれが他の顧客に対するサポート業務にも悪影響を及ぼす懸念があるからだ。誰かの損になりこそすれ、どこの誰にとっても得とはならない。
むろん、サポートにかかるコストの削減の努力はあっても良い。とはいえ、一朝一夕でそれを実現できるものではない。ゆえに当座の要求については、顧客の求めに応じられないことを悔やみつつもいったんお断りするほかない。

我々コンサル(笑)は、Win-Win(笑) という今やいいかげん陳腐なコトバをいまだに使う。とはいえ、その背景には「パレート最適」という偉大な先人が見出した法則があることを、どうか心の片隅にでも留めておいていただけるならありがたい。