楽天こそ IFRS を早期適用すべきだ


楽天トラベルで虚偽予約 全国1600ホテル被害か - MSN 産経ニュース
旅行予約サイト「楽天トラベル」のポイントサービスを悪用するため、サイトからホテルに虚偽の宿泊予約をしたとして、警視庁捜査1課は偽計業務妨害容疑で村中健(28)と小原健作(27)=住所不定、無職=の2容疑者を逮捕し、7日、東京地検に送検した。
楽天トラベルをめぐっては、今年2月から全国約1600のホテルで、約2万8000室のカラ予約が繰り返されており、同課が関連を捜査している。
同課によると、2人は「楽天のポイントがほしくてやった。週に数十万円稼いでいた。ポイントでゲームソフトやCD、本を購入したほか、ホテルに宿泊した」と容疑を認めている。
上記の不正で、容疑者たち以外に得をする者がもしいるとすればそれは誰か。誰もいない。楽天はおろか、「楽天トラベル」に契約している全国の宿泊施設も売上獲得の機会を失う「全方損」となる行為だ。
今回の件は、楽天のポイント・システムの不備を突いた巧妙な犯罪と言える。楽天に法的責任はないとしても、心情的に責任を問いたくなるというのが被害に遭った各宿泊施設の本音であるに違いない。
こうした問題を避けるために、楽天国際会計基準国際財務報告基準、すなわち IFRS を早期適用すべきという提案をしてみる。なお、以降の話は憶測や仮定も多分に含まれるため、適宜ツッコミを入れていただけるとありがたい。
楽天トラベルには、3つの利害関係者がいる。宿泊予約者(消費者)、ホテルや旅館(宿泊施設)、そして楽天(企業)である。「楽天市場」など、楽天が提供している各種サービスは消費者が直接の恩恵を受ける「B to C」の側面がクローズアップされがちだ。とはいえ、むしろ楽天 vs. 販売店、あるいは今回のように楽天 vs. 宿泊施設という「B to B」の側面をなお重視せねばならない。なぜなら、それこそが楽天の収益源の主要を占めるからだ。
ちなみに、楽天トラベルにおいては宿泊料から特定の割合で徴収する手数料がその収益源となっている。
楽天トラベルにおける「予約」から「宿泊」という一連の流れが通常通りに進むとすると、その収益プロセスはおおよそ以下のようになるはずだ。
  1. 宿泊予約者が楽天トラベルにログイン、探し当てた宿を予約する。
  2. 宿泊施設は、楽天のシステムを通じ予約があったことが自動的に通知される。
  3. 楽天は、予約時の宿泊金額に手数料率を乗じた金額を「売掛金」として計上する。
  4. 宿泊日が到来、宿泊予約者は宿泊施設を利用する。同時に、宿泊料を宿泊施設に支払う。
  5. 宿泊施設は、宿泊予約者の宿泊日を過ぎたあたりに、楽天から手数料の請求書を受け取る。
  6. 宿泊施設は、手数料を特定の期間内に楽天が指定した口座に入金する。
  7. 楽天は、宿泊施設からの入金を確認した時点で 3. の「売掛金」を「売上」に振り替える。
ここで、私が書いた過去エントリを見ていただこう。そうすると、販売の際にポイントを付与するときは、じっさいに受け取ったカネからポイント分を控除したものを売上計上すべき(ポイント分は負債に計上)なのが IFRS の原則であることがわかる(cf. IFRIC 13)。
上記 1.〜 7. の流れを見た場合、ポイントを控除するタイミングを仮に売上計上時とするなら、楽天側は売上計上よりも前の時点でポイントを付与=負債を計上せねばならず、かつそのポイントが自社の他のサービスですぐに使われるリスクを抱えることとなる。
このままでは、冒頭のような犯罪を防ぐ手立てにはならないどころか、楽天の損失リスクも増大する。ではどうすればよいのか。
最も適切な善後策は、上記プロセス 7. の時点で初めて宿泊予約者にポイントを付与した上で、楽天の側は宿泊施設からの入金額からポイント分を控除した売上を計上する方法だ。この方法なら、少なくとも冒頭のような犯罪の起こる余地はなくなる。
とはいえ、楽天トラベルがこれまで予約時点でポイントを宿泊予約者に付与していたのは、ほかならぬ楽天にとっての「カスタマー・ロイヤルティ・プログラム」、すなわち顧客の継続的確保のための手段であることは間違いない。となると、ポイント付与のタイミングを変えることは楽天としてもしのびないばかりか、仕組みが変わったことによる会員の不満や退会も招きかねない。
IFRS が「原則主義」であることはよく知られている。原則主義とは、これまでの会計規則の「条文主義」、すなわち各々の会計手続につき処理手順を条文で定める方法と違い、「会計原則」に基づけばその実適用においては企業の裁量がある程度認められるという意味になる。
ならば、上記プロセス 3. の売掛金の計上の時点でポイント分を控除してしまう方法も考えられなくはない。この方法ではポイントの発行量が限定的、すなわち[ポイント金額相当分<宿泊金額のうちの手数料]という条件が常に必要だ。となると、楽天の収益圧迫要因となるばかりかカスタマー・ロイヤルティ・プログラムとしての旨みも乏しくなることが懸念される。
いずれにせよ、IFRS 適用にあたっては楽天は各利害関係者に向け詳細かつ漏れのない説明を行った上で、ポイント付与の仕組みを変更していかねばならない。これは冒頭のような「犯罪」を防ぐために、楽天といういち企業が CSR(企業の社会的責任)の一環で対峙すべき課題なのだ。
IFRS が、楽天CSR を通じた社会的地位の向上に寄与するのであれば、良い先行適用事例となるのはまず間違いない。ぜひ、楽天の先進的な取り組みに期待したい。